枕草子 – 清少納言 –

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2020.01.14

春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。

夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。

螢の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。

秋は、夕暮。

夕日のさして、山の端(は)いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。

まいて雁などの連ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。

日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。

冬は、つとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。
昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。

春は、あけぼのの頃がよい。だんだんに白くなっていく山際が、少し明るくなり、紫がかった雲が細くたなびいているのがよい。
夏は、夜がよい。

満月の時期はなおさらだ。

闇夜もなおよい。蛍が多く飛びかっているのがよい。

一方、ただひとつふたつなどと、かすかに光ながら蛍が飛んでいくのも面白い。雨など降るのも趣がある。

秋は、夕暮れの時刻がよい。

夕日が差して、山の端がとても近く見えているところに、からすが寝どころへ帰ろうとして、三羽四羽、二羽三羽などと、飛び急ぐ様子さえしみじみとものを感じさせる。

ましてや雁などが連なって飛んでいるのが小さく見えている様は、とても趣深い。

日が沈みきって、風の音、虫の音などが聞こえてくる様は、改めて言うまでもない(言うまでもなく素晴らしい)。
冬は、朝早い頃がよい。雪が降った時はいうまでもない。

霜がとても白いのも、またそうでなくても、とても寒い時に、火を急いで熾して、炭をもって通っていくのも、とても似つかわしい。

昼になって、寒さがゆるくなってくる頃には、火桶の火も、白い灰が多くなってしまい、よい感じがしない。

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